東京農村ブログ

直売所に胸きゅん!?庭先直売について語る!(『東京農サロン・ゼミ』開催レポート)

2023年2月15日(水)に今年初めての東京農サロン・ゼミを開催しました。
今回のテーマは「庭先販売の課題とポテンシャル!」と題して、立川市の豊泉農園の豊泉享平さんと農業デザイナーの南部良太さんを招いて、参加者20名ほどでお話を伺いました。

まずは豊泉農園の豊泉さんからプレゼンテーションが行われました。豊泉農園では(普段あまり見かけることのない?)有人の直売所を運営されています。月・水・金・土の10時から15時まで開店しており、有人直売所で販売額が全売上のなんと7割を占めるそうです。

有人販売のメリットは3つで、1つ目は、フードロス削減につながること。有人販売であればスーパーに出せない野菜も、口頭で「どこが悪いか」「なぜそれが生まれたか」「食べ方」を説明することで破棄することなく販売することができます(ただし、B級品の販売をやりすぎるとA級品が売れなくなってしまうという懸念も)。
2つ目は、お客様に合わせた営業ができること。お客様の年齢や移動手段、趣味、職業などを把握し、そこからお客様にとって「最適な料理法」を伝えることができます。
例えば、お客様の年齢層が若ければ簡単な調理法をおすすめし、チャイルドチェアがついた自転車で来店した人には家族向けの野菜や調理法をおすすめするといった対応が可能となります。
3つ目は、お客様とコミュニケーションが取れること。単に野菜を売り込むだけでなく、野菜を食べた感想や調理法も聞くことで、来年の作付けの参考にしたり、野菜を加工した新製品の開発につなげたりすることができます。

また、有人販売だからこそ売れるものとして、①鮮度が良いもの②スーパーでは買えないもの③手土産で渡せるものが挙げられるそうです。②の具体例としては、ハヤトウリやウド、蕗のとう、葉とうがらしがあり、③の具体例としては、イチゴやオリジナルの加工品があります。

ただ、直売所に全く課題が無いかというとそうではなく、現時点での課題は、直売所に入りづらい雰囲気があることと、情報発信に改善の余地があることだそうです。改善策として、カラフルなPOPの作成や、SNS発信、ライブカメラで店内の様子を見られるようにすること、Googleマップへの登録などを今後さらに強化していくようです。

続いて農業デザイナーの南部さんからのプレゼンテーションが行われました。
大きく「直売所の特徴」「胸キュンポイント」「今後の可能性」の3点についてお話しいただきました。特徴に関して、直売所は大きく6つのタイプに類型化でき、①東家タイプ②プレハブタイプ③屋内タイプ④棚タイプ⑤ビニールハウスタイプ(南部さんのお気に入り)⑥自動販売機タイプに分かれるそうです(南部さん調べ)。ただ、無人の直売所だと防犯面で問題があり、最近は自動販売機タイプも増えてきているようです。 

続いて直売所の胸キュンポイントは主に3つあり、1点目が「農家フォント」と呼ばれる、商品名や値段を農家が直筆で書いたフォントです。白背景に黒文字があったり、黄色背景に黒文字があったり、はたまた黒板に書かれていたりと、農家によってさまざまなようです。2点目は「看板デザイン」で、木彫りで自作されたものもあれば、イラストでポップに描かれたものもあり、看板一つとっても胸キュンポイントが詰まっています。
3点目は「謎の売り場」で、直売所によっては、お金の投入口が真実の口だったり、フェアトレードのコーヒー豆が売られていたりするようです。また最近では、比較的古そうな直売所でもPayPayを導入している店舗があり、そのギャップにキュンとするようです。

直売所の可能性については、「直売所×◯◯」で新たなファンを獲得できるのではないかとのこと。
例えば、「直売所×飲み屋」で、野菜をつまみにお酒を飲むという形態や、「直売所×本屋」や「直売所×屋台」といった形態など、他業界と直売所をかけ合わせることで、今までにない直売所が生まれるのではないかというアツい想いが語られました。直売所が人とのつながりを生み、地産地消を促し、地域の課題解決の場としても機能する未来はそう遠くないのかもしれません。

 以上、今回は庭先販売(直売所)をテーマにして、実践例から今後の可能性まで、非常に多岐にわたるお話を伺いました。お二人のプレゼンテーションの後には、懇親会が行われ、参加者同士で盛り上がりました。

今後も庭先販売、そして東京農業から目が離せません!

 
一橋大学経済学部3年 岩崎友哉

【新春・東京農サロン】「野菜と酒Sprout」が東京農村でNEW OPEN!

 2023年1月20日(金)の夜、東京農村では東京農村・新店OPEN記念新年会が開催されました。当日は東京野菜をふんだんに使用したお料理が振る舞われたり、大越昭彦シェフによる熱い想いのこもったプレゼンテーションが繰り広げられたりして、都市農業を共通項に集まった40名ほどの参加者で大いに盛り上がりました。今回はそんな新年会の様子をレポートします。

 午後6時から開催された新年会には、農家はもちろん、官僚やジャーナリスト、大学教授、デザイナーなど非常に多様なバックグランドを持つ方々が集まりました。大越シェフが東京野菜を使った料理を振る舞い、参加者は「野菜と酒」に舌鼓を打ちました。

 続いて大越シェフによるプレゼンテーションが始まりました。蕎麦屋に生まれた大越シェフの生い立ちから、イタリアでの修行話、帰国後の業態開発やベーカリープロデュースなど、大越シェフの人生をぎゅっと凝縮したプレゼンテーションでした(イタリアでの色恋沙汰は大越シェフに直接聞いてみてくださいね笑)。


 大越シェフのこだわりは「お客様の胃袋に入る寸前まで、お野菜の魅力や可能性を、お客様の目の前でお伝えすること」。「オフライン店舗の強みを活かして、料理や消費者を絡めて都市農業を発信していく装置として、お店が機能してくれたら」と大越シェフは語ります。そんな大越シェフは自らをシェフ(料理人)かつファーマー(農家)の「シェファーマー」と自称しています。自らも畑に通い、料理をすることで、「農家さんとの距離ゼロ」のお店を目指しているようです。



 そんな大越シェフが作るお店の名前は「Sprout」。この場所から、野菜やお酒と共に、「新芽」が芽生えてほしい。そんな想いを込めて、この名前がつけられました。「全てはお客様と生産者の笑顔のために」を理念に掲げ、作業効率よりもお客様やスタッフを想うハートフルな気持ちを忘れずに、東京野菜を提供し続けます。グランドオープンは2月1日(水)。皆様もぜひ、大越シェフによる東京野菜料理を堪能してください。

 現在「野菜と酒 Sprout」へのクラウドファンディングも募集中です。以下のURLよりご支援よろしくお願いします。リターンはお食事券となっています!(2月14日まで)

https://camp-fire.jp/projects/view/638400

 
岩崎友哉(一橋大学経済学部3年)

未来へ多摩市の農をつなぐ!有機の力で農業公園?(『東京農サロン・ネオ』開催レポート)

奇数回にお届けしている東京農サロン・ネオ。今回は「多摩丘陵、ニュータウンのなかで残る有機農業~落ち葉堆肥、有機農業公園、多摩市農業のこれから~」というテーマのもと、多摩市の農家・萩原重治さん(冒頭写真)、多摩市役所の農業委員会事務局農地係長の沖迫達矢さんをお招きして、落ち葉堆肥で有機農業を行う理由や多摩市農業公園の計画と展望についてのお話をうかがった後、未来ある農業について熱い議論が交わされました。

ニュータウン開発でかつての里山から変貌を遂げた多摩市。
丘陵地が多く農地を維持するのが難しいため、農地面積は38ha、農家数は70戸と近隣の都市と比べても非常に少なく、さらに年々農地面積、農家数ともに減少しています。そこで多摩市の農地を守るため、平成31年に市民の農への関心を高めるための「多摩都市農業振興プラン」を策定したり、令和4年には「多摩里山プロジェクト」を開始するなど、未来へ農をつなげる取り組みを行っています。


 
「多摩里山農業公園プロジェクト」とは?多摩市農業のこれから

多摩市連光寺辺りの湿地には珍しい貝やヘイケボタルなど、希少な生物が生息しています。
これらの希少な生物を守るため、平成26年東京都より約32,900㎡が里山保全地域として指定されました。
さらに、集水域の保全も必要であるとして、令和2年に約16,400㎡が追加で指定されました。
多摩市はこの拡張された地域のうち約3,600㎡を買い取り、「周辺環境にも配慮しながら、市民が農作業の体験や体験を通じた交流・ふれあいなどを行うことができる、今までに見たことのない農業公園を作りたい」という想いの元で専門家と検討を重ね、令和4年に実験・体験をしながら農業公園をつくっていく「里山農業公園プロジェクト」が開始しました。

ジャガイモの栽培から始まり、多品目な野菜を栽培。
今年は予算の関係もあって、市役所の職員(農作業は未経験者多数!)も自ら耕作したということです。

現在はニンジン、ホウレンソウを試験栽培中。今後はさらに試験圃場面積を増やし、農作業だけでなく、ワークショップなども開催し、地域交流の場として展開していくそうです。

(多摩市連光寺の高台にある農業公園の用地)

有機栽培を行う理由とは?落ち葉堆肥の力

多摩里山農業公園の開園サポートや体験型農園の運営も行っている萩原重治さんは、何といっても落ち葉を中心とした有機栽培が特徴です。
有機栽培を始めたきっかけは、5、6年間ほど、有機肥料を使った野菜と化学肥料を使った野菜を並行的に育て、食べ比べたところ、有機栽培の方が絶対に美味しいという結論に至り有機栽培を始めたそうです。

(懇親会の料理も、萩原さんが育てた新鮮野菜で。大好評!)

主に有機の肥料は多摩市永山団地の落ち葉が使用されています。なかでもけやきやさくらを中心とした落ち葉が最もおいしい野菜が育つと長年の研究から気づいたそう。
多摩ニュータウンの団地と地元農業にこんな美味しい関係があるなんて。
毎年70kgほどの落ち葉が重治さんの畑に運ばれ、完熟状態になるまで約1年発酵させたら肥料として撒いているそうです。

さらに、重治さんは水を与えるのも最低限にしています。「化学肥料で作った野菜を肥満児とすれば、有機肥料で育った野菜はアスリート。野菜は自ら肥料・水を求めて根を生やしていくのが本来の自然な姿。最小限の肥料と水を与えることで、丈夫でおいしい野菜が育つ」と重治さんは語っておられました。

 「農を未来へ」つなげていくためには、野菜のおいしさを追求し農業の魅力を発信していくことと、市民を巻き込んだ農づくりが大切だということを学びました。新たな農業公園の未来が楽しみです。


(作成者)エマリコくにたちインターン 福田菜子

 

『東京農サロン・ゼミ』開催レポート:なぜ都市部で新規就農するの?

就農したて!小さな農園の素敵なビジョン

偶数月にお届けしている東京農サロン・ゼミの第7回が10月19日に東京農村で開催されました。

今回のテーマは『若者の就農』。今年の4月に就農し、武蔵野市と小金井市で実践のまっただなか、こびと農園の鈴木茜さんに生産緑地就農の実際についてお話しを伺ったのち、東京農業の今後について熱い議論が行われました。

茜さんは、農業高校卒業後、青果物流通会社に就職し、野菜や果物の仕入れに携わります。しかし自分自身で農業をやりたいという夢を諦めきれず、熊本県の農業法人に転職。その後、立川市のミニトマトの溶液栽培農家で3年間働き、独立に向けて東京農業アカデミー八王子研修農場で2年間研修をした後、今年の4月に東京の生産緑地で就農されました。



 
東京農業アカデミー八王子研修農場とは?

茜さんが独立に向けて通った東京農業アカデミーとはどのような場所なのでしょう。

東京農業アカデミー八王子研修農場とは、ずばり東京農業の専門学校です。八王子市にある約2haの敷地内に研修棟、環境制御システムハウス、路地畑を完備しており、東京都内で新規就農を目指す人を対象に、実践的な知識や技術をゼロから総合的に学ぶことができる研修施設です。2年間のカリキュラムの中で、農業全般に関わる座学研修から、就農に結び付く実戦的な実習研修を行い、農業面の技術向上を図るだけでなく、税理士やデザイナー、販売業者なども外部講師として招いて講習を受けるため、独立に向けて一通り学ぶことができるそうです。

 
農家は生産・販売だけではない!地域社会に貢献しつづける

「地域社会に貢献できるような経営を目指す」と話す茜さんは、野菜の生産・販売以外にもさまざまな活動をされています。

まず紹介するのは会員制の農作業体験サービス。茜さんの畑で月に2回ほど、種まきから収穫まで年間を通して体験してもらうサービスで、現在10組ほどご利用しているそうです。また、江戸川区と小金井市の体験農園で講師としても活躍されており、地域の方々に農業の技術や楽しさを教えられています。

さらに、農福連携技術支援者(農林水産省認定)という資格を取得し、地元の社会福祉法人に袋詰め作業を委託したり、小金井市にある障がい者就労支援事業所の畑づくりに携わったりするなど「農福連携」にも積極的に取り組まれています。最近は、大田市場の買参権を取得し、業務用野菜・果物などを自身の直売所や卸売り・小売店に販売もしているそう。今後、自身の直売所も八百屋のように展開していきたいとお話ししていました。

 就農して、まだ半年ほどしか経っていないにも関わらず、これだけのことを成し遂げている茜さんに、みなさん驚きが隠せませんでした。「今後も『農を通じて心に彩を』をモットーに、新しい都市農業のスタイルを確立させ、農業に興味がある人の良いモデルになり、女性でも活躍できる、新たなことに挑戦できる、そんな開かれた産業として認識されるような経営者になっていきたい」と語っておられました。

 「農業は生産・販売だけでなく、地域社会に貢献することが大切だ」というお言葉がとても印象に残っています。地域の繋がりをつくる場・人々に癒しを与える場として、農業の需要が増えてきているなか、今後の都市農業の変化とこびと農園の進化がとても楽しみです。

【農を通じて心に彩を こびと農園】
https://kobitofarm.com/
 

作成者 エマリコくにたちインターン 福田 菜子

地域と協力! 知られざる世田谷農業の実態[東京農サロンネオ 開催レポート]

奇数月に開催している東京農サロン・ネオ。今回は9月21日に開催され、今回は「農地で勝負する!世田谷農業 ~シェフと連携、切り花…まちなか農家の選択~」というテーマのもと、世田谷区内、約1500㎡(450坪)の畑で季節の野菜、切花、花苗を露地、施設栽培をしている安藤 智一さんと、季節の切花生産を中心に営農を行っている高橋 成司さんの2名から、強烈な住宅需要をうけて面積を年々縮小せざるをえない環境の中、限られた農地でどのように農業経営を行っているのか、お話を伺ってきました。


町の飲食店と協力


安藤さんは、約1500m2の農地で季節の野菜や、切り花を販売しております。

また、町の飲食店と提携し、季節の野菜を使った料理を飲食店で提供しています。

安定供給が必要な大型店舗ではなく、個人が経営する飲食店でメロンを使ったスイーツや枝豆を使ったモンブラン、またトマトの最盛期には余ったトマトを使ってトマトパスタを提供しているそうです。

その際にも、ただ料理を提供するだけではなく、生産して調理するまでのストーリーを伝えて、食べること以外の楽しさをお客さんに与えています。

その点は地元の飲食店と提携するからこその大きな利点となっています。

ベッドタウンである二子玉川や、若者に人気な下北沢があることで有名な世田谷区ですが、その中で農地が景観となり、その景観の維持に携われている喜びを感じていると安藤さんは仰っていました。


野菜より儲かる?切花生産の実態


高橋さんは、今までの農サロンで登壇していただいた生産者さんとは違い、野菜ではなく切花生産をメインに行なっており、ひまわりの切花の審査会で、東京中央農業協同組合 組合長賞を受賞しました。

昔は野菜を生産していたそうです。ただ、売り上げがなかなか伸びなかった頃、直売所の当番をの当番をしていた際に、バケツいっぱいの切り花を持ってきた農家さんがすごい売り上げを記録していた光景を目撃して、切り花生産に切り替えようと決心したそうです。

切花は野菜と違って肥料をあげすぎると大きくなりすぎて、切り花として成立しなくなってしまうため、玉ねぎを生産した後の畑に花の種を植えると、とてもちょうどいいサイズになるため、効率よく生産をすることができるのも切花生産のメリットだと思います。



今回のお話で、野菜の生産だけが農業ではないことを実感することができました。また、野菜だけではなく、新しく切花生産というジャンルを知ることができ、さらに自分自身の視野を広げることができました。

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