東京農村ブログ

霞ヶ関の熱風が吹き荒れた!【東京農サロン・ゼミ開催レポート】

 2023年4月27日(木)に東京農村にて「都市農地を守れ!霞ヶ関の熱風を感じる夜」と題して、東京農サロンゼミを開催しました。
 今回は国交相から酒井さん、農水省から新田さん、JA東京中央会から河合さんをお招きして、主に農業政策の観点からお話を伺いました。当日は定員15名のはずが、約30人もの方にご参加いただき、会場は文字通り熱気に包まれていました。

 まずは国土交通省都市局都市計画課課長補佐の酒井さんからお話いただき、生産緑地2022年問題を踏まえて、都市農地をいかに守っていくべきかについて理解を深めました。
 そもそも生産緑地2022年問題とは、生産緑地として指定されていた土地が、指定から30年が経過する2022年に指定解除を迎えて、地価が暴落する恐れがあるという問題です。この問題に対して、国交相は特定生産緑地制度を新設し、結果的に平成4年に定められた生産緑地の約9割が特定生産緑地に認定されたようです。ただ、指定の割合は地域ごとに若干のばらつきがあり(東京では9割程度の一方で、愛知では8割弱)、その原因については完全には解明されていないようです。特定生産緑地への指定が進んでいるとはいえ、1割の生産緑地は非特定であり、生産緑地が徐々に減少しているという傾向に変化はないことから、生産緑地・都市農地を守っていくことが引き続き求められます。
 そうした中で、国交相はさまざまな取り組みを行なっており、その一つが都市農地の創出です。これは現在駐車場などとして利用されている土地を農地に転換するというものです。農地への転換に際しての駐車場撤去費用などが高額のため支援したいものの、市民農園のように公共性が高いわけではないので、支援実行まで一筋縄ではいかないようです。
 上記のような農地の「量的拡大」以外にも、農地をいかに街の中で活用していくのかという観点で「質的」な改善に向けた取り組みも進んでおり、これは「田園エリマネ(エリアマネジメント)」と呼ばれます。収穫イベントや炊き出しなど、地域住民との関係性の中で農地を保全していく取り組みに対しての支援などが用意されているようです。
 また昨今では「まちづくりGX(Green Transformation)」という言葉も生まれており、これは温室効果ガスの排出削減のみを視野に入れるのではなく、生物多様性の確保や人々のウェルビーイングの実現も含めたまちづくりを目指す取り組みです。
 このように国交相では生産緑地2022年問題を乗り越え、農地を量的・質的の両方の観点で拡大していくような取り組みを行なっています。

 続いて農林水産省で半島・離島、中山間地域等の振興に携わる新田さんに、「農地への転換」を中心にお話を伺いました。酒井さんのお話でも話題に上がった生産緑地2022年問題に関して、現段階では9割が特定生産緑地に指定されているものの、今後別の用途に転用されてしまう可能性もあると指摘します。その上で、農業的な土地利用から都市的な土地利用に一度変更されてしまうと、農業的・自然的な土地利用に再度変更することは極めて困難であるとの指摘も多い中で、本当に農地に転換することは難しいのか?ということについてお話いただきました。
 農水省でも、今年度から農地を新たに作り出すための補助金を用意しています。
 実は昨今ではR不動産が神戸で実施した事例のように、農地への転換の動きが生まれてきており、特にシェア畑として転換する事例が多いようです。また、経済合理性の観点から分析すると、東京駅からの距離と市民農園の利用料金は、駅に近ければ近いほど料金が高いという関係性があり、現在のような状況では、駐車場やアパートとして土地を活用するよりも農地を開設する方が儲かるという状況が生まれているようです。このような農地への転換をさらに促進するためには、農政と都市政策が手を携えることが必要だと新田さんは指摘します。市民農園を接点として農政と都市政策がつながり、都市農地を保全することができるのではないかという提起でお話は締めくくられました。

  最後に登場したのはJA東京中央会 都市農業支援部の河合隼佑さん。農地把握システムの活用についてというテーマでお話を伺いました。
 農地把握システムとは、農家組合員が保有している農地情報を登録することで、地図上で情報を管理することができるというシステムで、農地シミュレーション機能を使えば、「◯年後に農家が〜才以上になる農地」といった検索もできるようです。これを利用することで、農家から聞き取った大切な情報を安全な形で保存するとともに、把握した農地情報を適切な相談対応や農地活用提案などの活かしていくことを目的としています。実際に現在JAにおいては、このシステムを活用して営農部門の職員が農家の相談に乗ったり、農業の担い手の支援をおこなったりしているようです。

  以上、今回は政策的観点から都市農地について3名の専門家からお話を伺いました。普段は実際に農業を営む農家ばかりに目が向きがちですが、そうした営農の取り組みが途絶えないように、そして今よりも活発になるように、あの手この手で支援をしているお三方のお話は大変新鮮で刺激的でした。

エマリコくにたち インターン生 岩崎友哉

武蔵小金井駅前に広がる畑の正体とは?!【東京農サロン・ゼミ開催レポート】

2023年3月20日(月)に東京農村にて東京農サロン・ゼミを開催しました。

今回は大久保農園園主の大久保勝盛さんをお招きして、「都市農地を市民に開く!わくわく都民農園小金井ができるまで」と題して、お話を伺いました。皆さんは「都民農園」をご存知ですか?貸し農園という言葉は聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。今回はそんな都民農園についてレポートします!

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大久保さんは先述の通り大久保園の園主でありながら、JA東京むさし青壮年部の本部長も務めていらっしゃいます。植木職人のお父様から受け継いだ植木畑を収穫体験農園にリニューアルし、サツマイモやじゃがいもなどの収穫体験で年間2000人以上の園児を受け入れているそうです。


2022年3月には武蔵小金井駅近く(本当に近いです!)の3,000㎡の生産緑地を東京都に貸し、小金井市観光まちおこし協会による「わくわく都民農園小金井」を開設されました。わくわく農園は、東京都が都市農地の保全と超高齢社会に向けた高齢者の活躍と地域の多世代交流を進めることができる地域モデルの確立を目指して整備されました。敷地内には5種類もの農地があるのに加えて、防災機能や販売所も備えています。

メインとなるのはシニア農園で、ここでは都内在住のシニア層が栽培セミナーを受講することで野菜栽培技術を習得することができます。都市農業の縮小、高齢化の進行、地域の交流不足などが叫ばれる中で、土地貸借による農業体験を通して、農の学びと交流を生み出し、高齢でも元気に地域とつながることを可能にします。それ以外にも福祉農園、地域農園、こども農園など、目的に応じて様々な農地が用意されています。

農園開設当初は葉っぱや虫などに関して、ご近所からの苦情もあったようですが、地域住民の方との繋がりもできた現在では苦情はほぼ無くなっているようです。現在の課題は、都民農園利用者のその後のサポートに関するものです。都民農園では本来、そこで技術を習得したシニア層が、その後も農家を支援したり、土地を借りて農業を始めたり、地方に移住して農業を始めたりすることを想定しているようですが、小金井市ではそれらに関して支援制度が整備されていないので、今後取り組むべき課題と言えそうです。

以上、今回は「わくわく都民農園小金井」についてのお話を軸に、都民農園の難しさや可能性について理解を深めました。小金井市でも農地が減少している今なお大きな農地を持っている大久保さんが、貴重な土地で農業ができていることの利益を地域に還元すべく奮闘し、「保育園で収穫体験をした園児が大きくなって、『この場所でさつまいも掘り体験をしたんだ』と思い出してくれたら嬉しい」と語る姿が印象的でした。
https://koganei-kanko.jp/ (小金井市観光まちおこし協会HP)
https://koganei-kanko.jp/farm/introduction (わくわく都民農園小金井HP) 


ライター:一橋大学3年 岩崎友哉(株式会社エマリコくにたちインターン) 

東京のキノコ美味しい~!【農家と食べようin東京農村レポート】

2月25日土曜日、「農家と食べようin東京農村」シリーズの日野キノコ編が、「野菜と酒 Sprout」で開催されました。

「野菜と酒 Sprout」は、2月1日に東京農村に開業した新店です。
いろいろなキノコを育てている日野パイロットファームの遠藤善夫さんがキノコ栽培について語りました。
参加者はワインを飲みながら、美味しいキノコ料理に舌鼓。

奥が遠藤さん、手前でキノコを調理するのがSproutの大越昭彦シェフです。

ライヴ感満点です。
キノコは、なめこ、しいたけ、ひらたけ、そして珍しいところでタモギタケが用意されました。

しいたけは揚げたての串揚げで!
北海道や青森が原産だというタモギタケ。香りが素晴らしい。
なめこ。スーパーで売られているのとは、ぜんぜん見た目が違います。見た目のとおり、味が濃いです。

熱心に遠藤さんの話に耳を傾ける参加者のみなさん。
ひらたけは、シンプルなローストで。店じゅうに香ばしい香りが!

参加者からは、自宅でしいたけを育てる場合のコツなどの質問も出ていました。

「農家と食べようin東京農村」シリーズ、今後もお楽しみに!

直売所に胸きゅん!?庭先直売について語る!(『東京農サロン・ゼミ』開催レポート)

2023年2月15日(水)に今年初めての東京農サロン・ゼミを開催しました。
今回のテーマは「庭先販売の課題とポテンシャル!」と題して、立川市の豊泉農園の豊泉享平さんと農業デザイナーの南部良太さんを招いて、参加者20名ほどでお話を伺いました。

まずは豊泉農園の豊泉さんからプレゼンテーションが行われました。豊泉農園では(普段あまり見かけることのない?)有人の直売所を運営されています。月・水・金・土の10時から15時まで開店しており、有人直売所で販売額が全売上のなんと7割を占めるそうです。

有人販売のメリットは3つで、1つ目は、フードロス削減につながること。有人販売であればスーパーに出せない野菜も、口頭で「どこが悪いか」「なぜそれが生まれたか」「食べ方」を説明することで破棄することなく販売することができます(ただし、B級品の販売をやりすぎるとA級品が売れなくなってしまうという懸念も)。
2つ目は、お客様に合わせた営業ができること。お客様の年齢や移動手段、趣味、職業などを把握し、そこからお客様にとって「最適な料理法」を伝えることができます。
例えば、お客様の年齢層が若ければ簡単な調理法をおすすめし、チャイルドチェアがついた自転車で来店した人には家族向けの野菜や調理法をおすすめするといった対応が可能となります。
3つ目は、お客様とコミュニケーションが取れること。単に野菜を売り込むだけでなく、野菜を食べた感想や調理法も聞くことで、来年の作付けの参考にしたり、野菜を加工した新製品の開発につなげたりすることができます。

また、有人販売だからこそ売れるものとして、①鮮度が良いもの②スーパーでは買えないもの③手土産で渡せるものが挙げられるそうです。②の具体例としては、ハヤトウリやウド、蕗のとう、葉とうがらしがあり、③の具体例としては、イチゴやオリジナルの加工品があります。

ただ、直売所に全く課題が無いかというとそうではなく、現時点での課題は、直売所に入りづらい雰囲気があることと、情報発信に改善の余地があることだそうです。改善策として、カラフルなPOPの作成や、SNS発信、ライブカメラで店内の様子を見られるようにすること、Googleマップへの登録などを今後さらに強化していくようです。

続いて農業デザイナーの南部さんからのプレゼンテーションが行われました。
大きく「直売所の特徴」「胸キュンポイント」「今後の可能性」の3点についてお話しいただきました。特徴に関して、直売所は大きく6つのタイプに類型化でき、①東家タイプ②プレハブタイプ③屋内タイプ④棚タイプ⑤ビニールハウスタイプ(南部さんのお気に入り)⑥自動販売機タイプに分かれるそうです(南部さん調べ)。ただ、無人の直売所だと防犯面で問題があり、最近は自動販売機タイプも増えてきているようです。 

続いて直売所の胸キュンポイントは主に3つあり、1点目が「農家フォント」と呼ばれる、商品名や値段を農家が直筆で書いたフォントです。白背景に黒文字があったり、黄色背景に黒文字があったり、はたまた黒板に書かれていたりと、農家によってさまざまなようです。2点目は「看板デザイン」で、木彫りで自作されたものもあれば、イラストでポップに描かれたものもあり、看板一つとっても胸キュンポイントが詰まっています。
3点目は「謎の売り場」で、直売所によっては、お金の投入口が真実の口だったり、フェアトレードのコーヒー豆が売られていたりするようです。また最近では、比較的古そうな直売所でもPayPayを導入している店舗があり、そのギャップにキュンとするようです。

直売所の可能性については、「直売所×◯◯」で新たなファンを獲得できるのではないかとのこと。
例えば、「直売所×飲み屋」で、野菜をつまみにお酒を飲むという形態や、「直売所×本屋」や「直売所×屋台」といった形態など、他業界と直売所をかけ合わせることで、今までにない直売所が生まれるのではないかというアツい想いが語られました。直売所が人とのつながりを生み、地産地消を促し、地域の課題解決の場としても機能する未来はそう遠くないのかもしれません。

 以上、今回は庭先販売(直売所)をテーマにして、実践例から今後の可能性まで、非常に多岐にわたるお話を伺いました。お二人のプレゼンテーションの後には、懇親会が行われ、参加者同士で盛り上がりました。

今後も庭先販売、そして東京農業から目が離せません!

 
一橋大学経済学部3年 岩崎友哉

【新春・東京農サロン】「野菜と酒Sprout」が東京農村でNEW OPEN!

 2023年1月20日(金)の夜、東京農村では東京農村・新店OPEN記念新年会が開催されました。当日は東京野菜をふんだんに使用したお料理が振る舞われたり、大越昭彦シェフによる熱い想いのこもったプレゼンテーションが繰り広げられたりして、都市農業を共通項に集まった40名ほどの参加者で大いに盛り上がりました。今回はそんな新年会の様子をレポートします。

 午後6時から開催された新年会には、農家はもちろん、官僚やジャーナリスト、大学教授、デザイナーなど非常に多様なバックグランドを持つ方々が集まりました。大越シェフが東京野菜を使った料理を振る舞い、参加者は「野菜と酒」に舌鼓を打ちました。

 続いて大越シェフによるプレゼンテーションが始まりました。蕎麦屋に生まれた大越シェフの生い立ちから、イタリアでの修行話、帰国後の業態開発やベーカリープロデュースなど、大越シェフの人生をぎゅっと凝縮したプレゼンテーションでした(イタリアでの色恋沙汰は大越シェフに直接聞いてみてくださいね笑)。


 大越シェフのこだわりは「お客様の胃袋に入る寸前まで、お野菜の魅力や可能性を、お客様の目の前でお伝えすること」。「オフライン店舗の強みを活かして、料理や消費者を絡めて都市農業を発信していく装置として、お店が機能してくれたら」と大越シェフは語ります。そんな大越シェフは自らをシェフ(料理人)かつファーマー(農家)の「シェファーマー」と自称しています。自らも畑に通い、料理をすることで、「農家さんとの距離ゼロ」のお店を目指しているようです。



 そんな大越シェフが作るお店の名前は「Sprout」。この場所から、野菜やお酒と共に、「新芽」が芽生えてほしい。そんな想いを込めて、この名前がつけられました。「全てはお客様と生産者の笑顔のために」を理念に掲げ、作業効率よりもお客様やスタッフを想うハートフルな気持ちを忘れずに、東京野菜を提供し続けます。グランドオープンは2月1日(水)。皆様もぜひ、大越シェフによる東京野菜料理を堪能してください。

 現在「野菜と酒 Sprout」へのクラウドファンディングも募集中です。以下のURLよりご支援よろしくお願いします。リターンはお食事券となっています!(2月14日まで)

https://camp-fire.jp/projects/view/638400

 
岩崎友哉(一橋大学経済学部3年)

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