9月の「東京農サロンNeo」が先日開催されました。
今回はJA東京の吉田知弘さん、農家の細渕良成さんをお招きし、杉並区の農業をテーマにご講演いただきました。
吉田さんからは、杉並区の農業の変化、また近年に都市の農地がどのような役割を期待されているのか、それに伴いJAがどのような取り組みをしているのかという点に関してお話をいただきました。
杉並区の農業は農地の面積、農家の数の観点から見ると、ここ10年程で縮小傾向にあるとのことでした。平成26年には46.3haだった農地は、現在では36.24haほどで、同じく平成26年には152戸あった農家の数も、現在では119戸まで数を減らしています。
一方で区民の農業に対する期待は高まっています。農業に触れる機会を求める声が高まっており、食育に代表される教育的な効果も広く認知されてきたといえるでしょう。JA東京中央では、「営農事業」、とりわけ「農園管理」を通じて市民と農業の接点を作る取り組みを実施しています。
すぎのこ農園の運営もその一例です。区民ボランティアの協力の元、収穫を体験できるイベントを開催している他、区画を一部貸し出すことで農業に実際に取り組む機会を区民に提供しています。
すぎのこ農園に関して特筆したいのは「農福連携」の取り組みです。
都市農園は、農産物を生産する以外にも多面的機能を持ちます。その中でも、すぎのこ農園は「福祉」の機能を持つ農園だと紹介がありました。農園では障がい者が農業に触れる実習を通じ就労を支援しています。また農園で収穫された作物は施設の料理に使用されているようです。
農園は「子供の教育の場」にもなっています。
成田西ふれあい農業園では、「農に触れあう講座」と題して中高学年の小学生18人を対象に収穫・調理・食事の体験プログラムを実施しています。これは農園から食卓に野菜が届くまで実感できる食育の取り組みです。その他にも季節ごとのイベントや収穫体験、講演会を実施し、子供に限らず様々な人と農業の接点を作り出しています。
吉田さんは長く農産物を販売する現場の最前線に立たれてきた方だそうで、お話や立ち振る舞いからお客様と農産物、また販売現場と農家の接点をたくさん目にされてきたのだろうと感じました。後述する細渕さんが、収穫した農産物の大半を軒先で売り切ってしまいJAに出荷できる分が少ないことがあるとお話をなさっていたときの吉田さんの表情はとても寛容で、長く現場を目にされているからこそ地域の農業の事情を事細かにご理解なさっているのだろうと思いました。その上で地域の方々と農業の接点を増やそうと奔走されているお姿は素敵で、感銘を受けました。
細渕さんは、江戸時代から15代続く歴史ある農家で、住宅が所狭しと並ぶ杉並区で1ヘクタールの農地を所有されています。
農地は市内4か所に分散していて、その中で一番南にある上高井戸の農地は京王線の車窓から見える新宿より最後の農地だそうです。北側に一つ飛び地のようになっている農地では、縁あって柑橘を栽培されているとのこと。(勉強不足なもので、住宅地で柑橘が栽培されているイメージがなく、柑橘を、しかもかなりの規模で栽培されていることに驚きました!)また品種も多岐にわたります。みかん、夏みかん、八朔からレモン、シークワーサーまで、その品種の多さにも驚きました。
細渕さんのお話の中で特に印象的だったのは、宅地開発の波の中でお父様と共に農地を守り抜いてきたというエピソードです。
細渕さんは、所有している土地の一部で不動産を営んでいるそうです。相続の際には、農地を売り不動産を残す選択を取ることも考えたそうですが、農家である限り農地を、また農業を守らなければいけないというお父様の教えもあり、畑には一切手をつけずにアパートを売り、農地を守ったのだとお話してくださいました。
農業を大切にするお父様の考えは、細渕さんにも受け継がれているように感じました。
かつて都農協副会長でもあったお父様は、常に次の世代のため、将来の農業のためを考えていらっしゃった方だそうです。細渕さんは今回の講演の最後に、最初は講演の話を断ろうか、と思っていたと明かしてくださいました。しかし最終的に講演を受諾したのは、講演を通じ、かつての父のように次の世代のために行動しなくてはならないと思ったためだったとのことでした。
杉並区の農業は数字で見れば縮小傾向にあるのかもしれませんが、そこには素敵な思いを持った農家の方々と、農業にもっと触れたいと願う区民がいます。その思いを支えるJAの方々もいます。
安易に「杉並区の農業の発展を願いたい」と書いてしまうのは、ただ傍観しているようでためらわれますが、それでも杉並区の農業の未来が明るいものであってほしいと強く願います。杉並区で育てられた野菜を見かけたら、手に取って、ささやかながら応援させていただきたいと思いました。
エマリコくにたちインターン 坂井陸斗
